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神戸地方裁判所 平成6年(行ウ)24号 判決

原告 有限会社ジイジイアイ

被告 兵庫県神戸財務事務所長

被告 兵庫県知事

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告兵庫県神戸財務事務所長が原告に対して平成四年一二月二八日付けでした

1  平成元年一一月分から平成四年六月分までの特別地方消費税についての更正処分のうち課税対象利用料金につき別表一記載の申告額を超える部分並びにこれに伴う過少申告加算金及び不申告加算金賦課処分

2  平成四年七月分から平成四年一〇月分までの特別地方消費税についての賦課処分及びこれに伴う不申告加算金賦課処分

を取り消す。

二  被告兵庫県知事が原告に対して平成六年四月一四日付けでした特別地方消費税についての審査請求に対する裁決を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、自ら経営するバーについて特別地方消費税の申告をしたが、被告兵庫県神戸財務事務所長(以下「被告事務所長」という。)から、申告した利用料金額が過少であるとして更正等の処分を受け、これに対する審査請求について、被告兵庫県知事から請求を棄却する裁決を受けたので、右処分及び裁決の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、神戸市中央区内において、昭和六一年一〇月一日以降、バー「昌紀」(以下「本件店舗」という。)を経営しており、兵庫県税条例九九条一項により、特別徴収義務者として、特別地方消費税を利用行為者から徴収し、兵庫県に納入する義務を負う者である。

2  原告は、平成元年一一月分から平成四年六月分までの特別地方消費税について、別表一申告額欄記載のとおり課税対象利用料金額を申告したのに対し、被告事務所長は、平成四年一二月二八日付けで、別表一更正決定額欄記載のとおり更正処分並びにこれに伴う過少申告加算金及び不申告加算金賦課処分をした。

3  被告事務所長は、原告に対し、平成四年一二月二八日付けで、同年七月分から一〇月分までの特別地方消費税について、別表一更正決定額欄記載のとおり賦課処分及びこれに伴う不申告加算金賦課処分をした(以下、これらの処分を併せて「本件処分」という。)。

4  原告は、被告兵庫県知事に対し、平成五年二月二四日、被告事務所長がした本件処分について審査請求をしたが、被告兵庫県知事は、平成六年四月一四日付けでこれを棄却する裁決(以下「本件裁決」という。)をし、そのころ、右裁決書は原告に送達された。

三  争点

1  推計課税の必要性

2  推計課税の合理性

3  原告主張の実額の有無

4  本件裁決の違法性

四  争点1、2に関する当事者の主張

1  争点1(推計課税の必要性)について

(被告らの主張)

(一) 納税義務者が帳簿書類を備え付けていない場合、納税義務者から提出された帳簿書類の記載が不正確で信用できない場合、又は納税義務者が調査に協力せずに帳簿書類を提出しない場合は、真実の課税標準額(実額)を直接把握することが著しく困難であるが、このような場合においても当該納税義務者への課税を避けることはできないので、課税庁は、間接的な資料又は事実を基に課税標準額を推計して、課税を行う必要がある。

(二) 被告事務所長は、本件店舗による平成元年一一月分以降の特別地方消費税の申告について、平成四年八月六日、調査を実施することにし、同月一〇日、原告に対し、保管している帳簿書類を提出するように求めた。

しかるに、原告は、被告事務所長に対し、売掛帳二冊及び売上伝票九七枚を提出したのみで、これ以外に保管している帳簿書類はない旨述べ、以後本件処分をするまでその他の帳簿書類を提出しなかった。

右売上伝票は、平成元年一一月分以降の調査期間のうち一部のものにすぎず、また、右売掛帳の記載内容も実際のとおりか否かが不明なものであった。そこで、被告事務所長は、本件店舗の利用料金の支払いに利用されていた原告の銀行預金口座への振込額を調査したところ、売掛帳に記載された売上金額が、右銀行振込額より著しく少ないことがわかったので、売掛帳を基に売上金額を直接把握することは、不可能かつ不相当であると判断した。

(三) したがって、本件において、原告から提出された帳簿書類によっても課税標準額を直接把握することができなかったのであるから、推計課税をする必要性があったというべきである。

(原告の主張)

原告が、被告事務所長に対し、税務調査の際に、売掛帳及び売上伝票九七枚以外の帳簿書類を提出しなかったのは、被告事務所長の担当職員が、ずさんな税務調査を行い、帳簿書類の提出を求めなかったので、原告がこれを提出することができなかったからである。

そして、本件訴訟において原告が提出した売上伝票(お勘定書)は信用性の高いものであり、売掛帳記載の金額と大きな差はなく、売掛帳に基づき課税標準額を算出することができるのであるから、推計課税をする必要性はない。

2  争点2(推計方法の合理性)について

(被告らの主張)

(一) 被告事務所長は、本件処分において、次の方法により課税標準額を推計した(別表二のとおり)。

(1) 平成元年一一月から平成四年一〇月までに、売上代金として原告の銀行口座に振り込まれた金額を二億〇四五一万二八三一円(別表二A)とし、これを一・〇六(特別地方消費税及び消費税が各三パーセント)で除して、右期間における課税対象利用料金額を一億九二九三万六七〇〇円(別表二B)と算定した上で、これを次の期間に区分した(別表二C)。

平成元年一一月から平成四年三月まで  一億五四六四万六〇〇〇円

同年四月から同年一〇月まで        三八二九万〇七〇〇円

(2) 平成元年一一月から平成四年三月までの間を次のとおり三区分し、各期間ごとの銀行振込額を集計した(別表二D)。

平成元年一一月から平成二年三月まで    三二七四万一一〇一円

平成二年四月から平成三年三月まで     七〇八四万八九五〇円

平成三年四月から平成四年三月まで     六三二七万五一〇三円

(3) そして、(1)で算出した平成元年一一月から平成四年三月までの利用料金額一億五四六四万六〇〇〇円を、(2)の各期間における銀行振込額の比率によって区分し、次のとおり、各期間における課税対象利用料金額を算出した(別表二E)。

平成元年一一月から平成二年三月まで    三〇三四万三六〇〇円

平成二年四月から平成三年三月まで     六五六六万〇八〇〇円

平成三年四月から平成四年三月まで     五八六四万一六〇〇円

(4) さらに、平成元年一一月から平成四年三月までの期間について、各期間における課税対象利用料金額を、各期間内における原告の申告税額の割合によって区分し、同年四月から一〇月までの期間については、(1)で算出した右期間内の課税対象利用料金額を期間内の月数七で等分することにより、各月の課税対象利用料金額を算出した(別表二H)。

(二) 本件においては、次のA又はBの方法により各月の課税対象利用料金額を推計するのが合理的である。

(Aの方法)(別表三のとおり)

(1) 平成元年一一月一日から平成四年一〇月末日までに、本件店舗の利用代金として銀行に振り込まれた金額を二億三六六五万四四八三円(別表三A)とし、これに現金で少なくとも支払われたと推定される売上金額五〇〇〇万円を加算して、売上金額合計を二億八六六五万四四八三円(別表三Dの合計欄)とする。

(2) 右売上金額合計を各月の申告税額の比率で按分して各月の売上金額を算定し(別表三Dの各欄)、すべての利用料金を課税対象として、右金額を一・〇六(消費税及び特別地方消費税の各三パーセント)で除して、各月の課税対象利用料金額を算定する(別表三E)。なお、平成四年七月から同年一〇月は、申告がなかったので、別紙計算表のとおり、計算上の申告税額を算定した。

申告税額を按分の基準にするのは、本件店舗において、銀行振込による支払いが必ずしも当該利用月に行われるとは限らず、他にこれを直接に把握できる資料がなく、他方、申告税額が各月ごとの売上高の傾向を示すものと考えられるからである。

また、すべての利用料金を課税対象にするのは、本件店舗における一人当たりの利用料金額が最低一万六〇〇〇円のセット料金であり、いずれも免税点である七五〇〇円を超えるものだからである。

(Bの方法)(別表四のとおり)

(1) 売掛帳記載の売上金額を、利用行為の当該月、翌月、翌々月及び翌翌々月に支払われた金額に区分し、各区分ごとに集計して、売上金額全体に対する当該月、翌月、翌々月及び翌翌々月に支払われた分の各比率を算出する。右比率の算出経過については別紙分析表のとおりである。

(2) 平成元年一一月一日から平成四年一二月末日までの各月の銀行振込額(別表四A)を、右比率により按分(別表四BないしE)した上で、売上年月に対する当該月、翌月、翌々月、翌翌々月に支払われた銀行振込額を加算して、銀行振込により支払われた各月の売上金額を算出する(別表四F)。

(3) 売掛帳の記載によれば、売上金額総額のうち受入金額が約八割になることから、売上金額のうち銀行振込により支払われた額は約八割であるといえるから、前記の各月の合計額を〇・八で除して、各月の売上金額を算出する(別表四G)。

(4) そして、すべての利用料金が課税対象に含まれるものであることは、前記のとおりであるから、各月の売上金額を一・〇六(消費税と特別地方消費税各三パーセント)で除して、各月の課税対象利用料金額を算定する(別表四H)。

(三) 本件処分における各月の課税標準額は、前記のA、Bのいずれの方法によって算出された各月の課税対象利用料金額を超えないものであるから、本件処分は適法である。

(原告の主張)

(一) 被告事務所長は、本件処分において、原告に対する銀行振込額を基に売上金額を算出して、課税対象利用料金額を算出している。

しかし、原告が本件訴訟において提出した売上伝票等によれば、右銀行振込額には、課税対象から除外されるべき免税点以下の利用料金や立替金が含まれているといえるから、これを除外しないで課税対象利用料金額を推計することは許されない。

(二) 被告事務所長は、本件処分において、銀行振込額から課税対象利用料金額の合計額を算出して、これを各月の申告税額の比率で按分して、各月の課税対象利用金額を推計している。

しかし、この方法は、特別地方消費税の申告、納税が一か月単位でなされるべきという点に反するのであって、利用料金の振込は二か月程度遅れてなされるのが通常であるから、各月の振込額と売上金額とは一致しない。また、被告らは、原告の申告税額を実際の売上金額に基づかないものと主張しながら、この申告税額に基づいて推計を行っている。

(三) したがって、本件処分における推計方法は合理性がない。

(原告の主張に対する被告らの反論)

原告が本件訴訟において提出した売上伝票は、〈1〉税務調査の際に提出された売上伝票と比較して、利用人数が多い、入店時間が早い、立替金の記載が多いこと等からみて、課税負担が軽くなる内容のものであること、〈2〉利用者本人による署名でない疑いがあること、〈3〉利用行為の後に書き換えられたものである疑いがあること等からみて、信用性のないものである。

したがって、この売上伝票を根拠にした原告の主張は失当である。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(推計課税の必要性)について

1  特別地方消費税は、地方税法一一三条一項に基づき、飲食店、バー等における遊興、飲食及び宿泊等の利用行為に対し、その利用料金を課税標準としてその利用者に課される税であるところ、同法には、所得税法一五六条及び法人税法一三一条のような推計課税をすることができる旨の規定はない。

しかし、納税義務者の申告した課税標準額等を実額として採用することができず、他にこれらの実額を直接把握するための十分な資料もない場合に、納税義務者に対する課税を見合わせることは、課税負担の公平の見地から許されない。したがって、課税庁は、地方税法による課税においても、推計課税をすることが許されるというべきである。

そして、推計課税は、税務調査等によっても課税標準額等の実額を直接把握するための十分な資料を取得できなかった場合に、間接的な資料に基づく合理的な推計の方法により、課税標準額等の近似値を算定するものと解するのが相当である。

2  争いのない事実及び証拠(乙六の1ないし42、七の1ないし55、九の1、2、一五の1ないし32、証人竹田敏雄の証言)によれば、本件処分に至る経緯について、次の事実が認められ、右認定に反する原告代表者本人尋問の結果は採用できない。

(一) 被告事務所長は、本件店舗について、昭和六一年一〇月一日の開業以来、特別地方消費税の申告内容について調査をしていなかったので、その内容について調査をする必要があると判断し、徴税吏員竹田敏雄(以下「竹田吏員」という。)に調査を命じた。

(二) 竹田吏員は、平成四年八月六日、本件店舗に赴き、同月一〇日に神戸財務事務所において面接調査を行う旨の通知書を従業員に手渡した。右通知書には、面接調査の際に、帳簿関係書類三年分及び決算書二年分を提出するように記載されていた。

(三) 原告は、竹田吏員に対し、同月一〇日、同月二四日、同年九月四日、同月二四日にそれぞれ指定された面接日を延期してほしいと申し出て、竹田吏員はその都度これを承諾した。

(四) 竹田吏員は、同月二九日、神戸財務事務所に来所した原告に対し、売掛帳、出納帳、売掛伝票等を挙げて、売上金額に関する帳簿書類を提出するように求めたが、原告は、帳簿書類は置く場所がないから一切置いていないと回答し、帳簿書類を持参していなかった。そこで、竹田吏員は、以後売上伝票類を保管するように指導するとともに、次回の一〇月八日に面接調査を行う旨を伝えた。

(五) 原告は、同年一〇月八日、神戸財務事務所に来所し、売掛帳二冊(乙九の1、2)及び売掛伝票四二枚(乙六の1ないし42)を提出し、その際、これ以外の売掛帳及び売上伝票はないと述べた。この売掛帳には売掛伝票五五枚(乙七の1ないし55)が、挟まれていた。

同日以降、本件処分が行われた同年一二月二八日まで、原告から他の帳簿書類は提出されなかった。

(六) 竹田吏員は、同年一〇月中旬、原告の取引銀行口座に顧客から振り込まれた売上金額を調査し、これと原告から提出された資料の記載内容と照合した。その結果、原告から提出された売掛帳の記載額の合計が、銀行振込額の合計の半分以下であり、右売掛帳の記載は売上金額全部を網羅したものではないこと、売上伝票についても、平成四年三月から同年九月までの期間のものであり、調査期間の一部についてしか提出されていないこと、原告申告にかかる特別地方消費税納入(付)申告書(乙一五の1ないし32)には、税額のみが記載されており、利用金額の内訳や税額算出の根拠について全く記載されていなかったことが判明した。

そこで、竹田吏員は、原告から提出された資料により調査期間全体における適正な売上金額を把握することはできないと判断し、これを受けて、被告事務所長は、原告への銀行振込額に基づいて課税標準額を推計することにして、右推計結果に基づき本件処分を行った。

3  原告は、税務調査の際に、竹田吏員から他の帳簿書類の提出を求められなかったので、実額を示した帳簿書類を提出しなかったのであり、また、竹田吏員に対して売掛帳を三冊提出したのに、同人は二冊しか提出されていないと偽っていると主張し、これに副う原告代表者の供述が存在する。

しかし、竹田吏員が原告に対して少なくとも二回の面接調査を行ったこと、同人が原告から提出された資料によっては適正な売上金額を把握できないと判断していたことは前記のとおりであるから、同人が、原告に対して税務調査の際に他の帳簿書類の提出を求めないことは通常考えられない。のみならず、竹田吏員の求めに応じ、原告は前記売掛帳二冊及び売上伝票を提出しており、三冊の売掛帳が提出されたのに、竹田吏員が提出されたのは二冊であったと事実を歪めて証言する必要性も認め難いうえ、右二冊の売掛帳の他に売掛帳が存在したことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、竹田吏員が、原告に対して実額を裏付けることができる帳簿書類の提出を求めず、また、売掛帳が三冊提出されたのに二冊提出されたと偽ったということはできないから、これに反する原告代表者の供述は信用できず、原告の右主張は採用できない。

4  以上によれば、被告事務所長は、原告に対し、本件店舗における課税標準額について税務調査を行ったのにもかかわらず、原告から課税標準の実額を直接把握するのに十分な資料を提出されなかったのであるから、本件において、推計課税を行う必要性があったというべきである。

二  争点2(推計課税の合理性)について

1(一)  推計課税が、課税標準額等の実額を直接把握することができない場合に、間接的な資料に基づき課税標準額の近似値を算定するものであることは、前記のとおりである。

そうすると、推計課税は、課税標準額の実額との関係で厳密な整合性を有するものである必要はなく、推計の方法及びその基礎とした資料からみて、課税標準額の近似値を算定する手段として合理的といえる場合に、その合理性を認めるのが相当である。

(二)  また、課税処分取消訴訟の訴訟物は、当該処分の違法性一般であり、当該処分により確定された税額が、租税法規により客観的に定まる税額を超えない限り、当該処分は適法というべきであるから、課税庁は、右訴訟の段階で、処分理由となる推計方法を差し替えて主張することもできると解される。

したがって、本件訴訟において、被告らが新たに主張する推計方法が合理的なものであれば、推計課税の合理性があるというべきである。

2  そこで、被告らが本件訴訟において新たに主張するBの方法(別表四参照)の合理性について、以下検討する。

この方法は、〈1〉本件店舗の売掛帳に基づいて売上金額に対する支払月ごとの比率を算出し、〈2〉原告への各月の銀行振込額を右比率で按分し、売上年月に対応する支払月の按分額を合計することにより、銀行振込により支払われた各月の売上金額を算出し、〈3〉右金額を売上金額全体に対する比率で除して、各月の売上金額を算出し、〈4〉右金額すべてを課税対象となる売上金額として、これを一・〇六で除することにより税額(消費税及び特別消費税)を控除して、各月の課税対象利用料金額を算定するものである。

3  原告から提出された本件店舗の売掛帳(乙九の1、2)が、売上金額のすべてを網羅したものではないことは前記のとおりであるが、証拠(乙九の1、2、一四の1、2、原告代表者本人尋問の結果)によれば、右売掛帳は本件店舗の売上及び支払の時期、金額の対応関係については、おおよそ実態を反映したものであること、被告らが、売上金額に対する支払月ごとの比率につき、右売掛帳の記載から、平成元年一一月から平成四年一〇月までの間の利用行為のうち利用及び支払の時期、金額を特定できるものをできる限り抽出して、本件店舗の利用月と利用料金の入金月を分析して算出したこと、右比率の算出結果が別紙分析表のとおりであることが認められるから、被告ら主張の右売掛帳に基づいて売上金額に対する支払月ごとの比率を推計する方法(前記〈1〉)は、合理的なものといえる。

4  証拠(乙八の1ないし28、証人竹田敏雄の証言)及び弁論の趣旨によれば、本件店舗の売上金額が、阪神銀行三ノ宮支店及び兵庫銀行布引支店の原告の口座への振込により支払われたこと、右口座が主に本件店舗の売上金額の支払いのために使用されていたことが認められ、右認定の事実によれば、右銀行口座への振込額に基づいて本件店舗の売上金額を推計すること、及び各月の銀行振込額と売上金額に対する支払月の比率を用いて、銀行振込により支払われた各月の売上金額を算出する方法(前記〈2〉)は、合理的なものといえる。

証拠(乙八の1ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、平成元年一〇月から平成四年一二月までの各月に、本件店舗の売上金額として銀行振込により支払われた金額は、被告ら主張の別表四Aのとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、被告らが行った銀行振込により支払われた各月の売上金額の算出経過及び結果は、別表四BないしFのとおりである。

5  証拠(乙九の1、2、一三、証人竹田敏雄の証言)及び弁論の全趣旨によれば、売掛帳(乙九の1、2)の記載では、売上金額のうち入金額が約八割を占めることが認められ、右売掛帳が、売上及び支払の時期、金額の対応関係については、おおよそ実態を反映したものであることは、前記のとおりであり、一般にバーにおいて現金払いなど銀行振込以外の方法による支払いがなされていることも併せ考えると、右売上金額のうち銀行振込により支払われた額は約八割を占めるものと認めるのが相当であり、右認定に反する原告代表者本人尋問の結果は採用できない。

したがって、被告ら主張の銀行振込により支払われた各月の売上金額を〇・八で除して、各月の売上金額を算出する方法(前記〈3〉)は、合理的な方法であり、右方法に基づく算出結果は、別表四Gのとおりである。

6  証拠(乙六の1ないし42、七の1ないし55、八の1ないし28、証人竹田敏雄の証言、原告代表者本人尋問の結果)によれば、原告が、竹田吏員に対し、税務調査の際、本件店舗における一人当たりのセット料金は一万六〇〇〇円であると説明していたこと、税務調査時に原告から提出された売上伝票には、一人当たりの売上金額が免税点である七五〇〇円(平成三年六月までは五〇〇〇円)以下となるものがなく、課税対象から除外すべき立替金の記載もなかったことが認められ、原告から提出された売掛帳(乙九の1、2)が、売上金額がすべて網羅されていないものであることは、前記のとおりである。

そして、後記三記載のとおり、本件訴訟において原告から提出された売上伝票は信用性のないものであり、他に課税対象から除外すべき売上金額があることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、各月の売上金額をすべて課税対象になるものとして、これを一・〇六で除することにより税額(消費税及び特別消費税)を控除し、各月の課税対象利用料金額を算定する方法(前記〈4〉)は、合理的なものであり、これに基づく算出結果は、別表四Hのとおりとなる。

7  以上によれば、被告ら主張のBの方法は、推計の方法及び基礎資料からみて、課税対象利用料金額の近似値を算出するために合理的なものであり、右方法に基づいて被告らが推計した結果は、実額に近似するものといえる。

したがって、本件において、推計課税の合理性があるというべきである。

三  争点3(原告主張の実額について)

1  推計課税の合理性が、推計の方法及び基礎となった資料からみて、課税標準額の近似値を算定する手段として合理的といえる場合に認められるものであることは、前記のとおりであるが、課税標準額等に関する直接資料を保管すべき義務を負う申告納税者が、右資料に基づいて実額を主張立証することは一般に困難なことではないといえる。

したがって、原告が、課税標準額等の実額を主張して、推計に基づく課税処分の取消しを求める場合には、原告において右実額を具体的に主張立証する責任を負うと解するのが相当である。

2(一)  原告は、本件訴訟において提出した売上伝票等によれば、課税対象から除外されるべき免税点以下の利用料金及び立替金が存在するのに、本件処分において除外されていないと主張する。

(二)  前記認定の事実、証拠(甲三の1ないし110、四の1ないし36、五の1ないし106、六の1ないし125、七の1ないし135、八の1ないし123、九の1ないし116、一〇の1ないし116、乙六の1ないし42、七の1ないし55、一七、原告代表者本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗の売上伝票について、次の事実が認められる。

(1) 本件店舗の売上伝票は、本件訴訟において、甲号証につき八六七枚、乙号証につき九七枚が、証拠として提出されている(以下、これらの売上伝票については、単に「甲号証」「乙号証」という。)。

乙号証には、平成四年四月から九月までの間、甲号証には、同年四月から一〇月までの間の作成日付が、それぞれ記載されている。

甲号証及び乙号証は、題名が「お勘定書」であること、日付、利用者名、品名、数量、金額、利用者の署名欄の各欄があること、品名欄にセット料金と不動文字で記載してあること等は共通しているが、甲号証には延長料金の、乙号証には係(顧客の担当ホステス)の記載があるが、他方にはない等その様式は異なっている。

本件店舗においては、利用行為が終了した際に、係の者が品名、料金額、税額等を売上伝票に記入し、これを利用者に示して、利用者本人の署名をもらう取扱いがなされている。

(2) 甲号証と乙号証とでは、日付、利用者名、品名等の記載からみて、同一の利用行為に対応すると認められるものが八二枚ある。以下、この内容について検討する。

ア 利用人数についてみると、甲号証が乙号証よりも利用人数が多いものが三一枚ある。この甲号証によれば、一人当たりの利用料金額は、いずれも免税点である七五〇〇円以下になるが、これに対応する乙号証には、いずれもセット料金一人当たり一万六〇〇〇円を基にした記載がなされている。

入店時間についてみると、甲号証が乙号証よりも入店時間が早いものが三一枚あり、この内三〇枚は前記の利用人数が多いものである。この甲号証は、入店時間として、いずれも午後八時以前の時刻が記載されているが、これに対応する乙号証ではいずれも午後八時以降の時刻が記載されている。

立替金についてみると、甲号証の該当欄に立替金額が記載されているものが一五枚あるのに対し、乙号証にこのような記載のあるものはない。

これらの事実を総合すると、甲号証の方が、乙号証より特別地方消費税額が少なくなるものが相当数あるといえる。

イ 甲号証には、一人当たりの利用料金が免税点七五〇〇円以下になるのにかかわらず、税額として合計金額の六パーセントの金額が記載されているものが相当数存在する。右税額は消費税の他に特別地方消費税を含むものと解されるが、飲食店、バー等が利用者に対してこのような税額の支払を請求することは通常考え難い。

ウ 甲号証、乙号証のいずれにも、利用者の署名欄に署名がなされているが、その筆跡からみて、乙号証については、同一利用者の署名欄の署名は、同一人物によるものと認められるが、同一利用行為に関する乙号証と甲号証の売上伝票は、同一人物によるものでないと認められ、原告代表者も、乙号証の署名は利用者本人によるものであると供述している。

エ 甲号証と乙号証について、同一内容の記載になっているものが約三〇枚あるが、このような記載をする合理的な理由を認めるに足りる証拠はない。

オ 甲号証に立替金の記載のある一五枚についてみると、その様式からみて、合計金額欄には、立替金額を含んだ額が記載されるべきであるのにかかわらず、立替金額を除外した合計額が記載されており、右金額はこれに対応する乙号証に記載された合計金額と一致している。

カ 原告代表者は、〈1〉甲号証が正規の用紙であり、乙号証は印刷ミスにより作成されたものである、〈2〉甲号証と乙号証の内容が異なるものは、甲号証を作成した後に、利用者の要望により利用人数、入店時間、立替金について虚偽の内容の乙号証を作成したものである、〈3〉甲号証と乙号証の内容が同じものは、乙号証を誤って作成した後に、甲号証に書き直したものである旨供述する。

しかし、印刷ミスの売上伝票の用紙を少なくとも数十枚も繰り返し使用すること、複数の利用者が延べ数十回の利用行為について、右〈2〉のような書き直しの要望をすること、及びこの書き直しを印刷ミスの用紙を使用して行うことは、不自然であり通常考え難いから、原告代表者の右供述は信用できない。

(3) のみならず、乙号証は、税務調査の際に提出されたのに対し、甲号証は、本件訴訟の第四回口頭弁論期日(平成七年二月二七日)において初めてその存在に言及され、同日にその一部が証拠として提出されている。

被告事務所長が、原告に対し、税務調査の際に、帳簿書類を提出するように数回にわたり要求していたのに、原告が、売掛帳二冊と乙号証の売上伝票以外の帳簿書類を提出しなかったことは、前記のとおりである。

(4) 以上の事実を併せ考えると、乙号証が、正規の売上伝票として利用行為の際に作成されたものであり、甲号証は、乙号証が被告事務所長に提出された後に作成されたものといえるから、甲号証の利用人数、入店時間、立替金に関する記載は、信用性がないというべきである。

したがって、甲号証の売上伝票に基づき、課税対象から除外されるべき利用料金額及び立替金の存在を認めることはできない。

(三)  また、原告は、本件店舗において、他から取り寄せた飲食物等を利用者に提供した場合、利用者はこれを自宅に持ち帰っているのであるから、右利用料金は課税対象にならないと主張する。

地方税法一一三条一項は、特別地方消費税が、飲食店、バー等における利用行為に対して、その利用料金を課税標準とする旨定めるから、当該店舗が飲食物等の提供、タクシーの手配等のサービスを取り次ぎ、これを当該店舗において利用させ、当該利用者から料金を徴収する場合も、同条により特別地方消費税の課税対象になると解するのが相当である。

証拠(甲一一ないし一四、原告代表者本人尋問の結果)によれば、本件店舗が飲食物を取り寄せして、利用者に提供していることは認められる。しかしながら、右のうち利用者が持ち帰った分についての価格が明らかではないうえ、一般的にバーの利用者が他から取り寄せした飲食物等を自宅に持ち帰っているとはいえない。また、本件店舗の利用者による報告書(甲一五、一六)は、甲号証の売上伝票を正規のものとする等の内容からみて採用できないのであって、他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件店舗が飲食物等を他から取り寄せて利用者に提供した分の利用料金について、課税標準額から除外すべきものとはいえないから、原告の右主張は採用できない。

(四)  以上によれば、本件店舗において、課税対象から除外されるべき利用料金額及び立替金の存在を認めることはできないから、原告の実額に関する主張はいずれも採用できない。

そして、他に課税標準の実額を認めるに足りる証拠はない。

四  そうすると、本件店舗における平成元年一一月から平成四年一〇月までの各月の課税標準額は別表四Hのとおりと推計されるのであって、本件処分において認定された課税標準額(別表四I)は、右金額をいずれも超えないものである。

しかして、弁論の全趣旨によれば、本件処分において、右認定した課税標準額に基づき、期限内申告に係る月について過少申告加算金を、期限後申告及び不申告に係る月について不申告加算金を各賦課したことが認められる。

したがって、右課税標準額に基づく本件処分はいずれも適法である。

五  争点3(本件裁決の違法性)について

原告は、本件裁決が原告の主張について実質的な審査をしなかったから違法であると主張する。

しかし、行政事件訴訟法一〇条二項によれば、処分取消しの訴えと裁決取消しの訴えの両方を提起できる場合、裁決取消しの訴えにおいては裁決に固有の瑕疵のみを主張できると解されるところ、原告は裁決固有の瑕疵についての具体的事実を何ら主張しておらず、本件裁決について裁決固有の瑕疵を認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件裁決が違法であるとはいえない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 將積良子 下村眞美 細川二朗)

別表一 本件処分の概要〈省略〉

別表二 本件処分における課税対象利用料金額の算出経過〈省略〉

別表三 被告主張の算定方法〈省略〉

別表四 被告主張の算定方法(Bの方法)〈省略〉

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